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2016年9月 2日 (金)

『プライベートバンカー』のモーレツさ

 読売ジャイアンツを解任され、その後、ノンフィクション作家として活躍している清武英利氏の新作である。当然、それはノンフィクションだと思ったら、そうではなくてフィクションだった。ただし、かなり綿密な取材を経て書かれた本書は、ノンフィクションとして読んでも差し支えない内容なのだろう。

 ちなみに『主人公である杉山智一氏は実名である』と書かれている。ちなみに、本書の舞台である「バンク・オブ・シンガポール(BOS)」は実在の銀行であり、「シンガポールを拠点とする華僑銀行(OCBC銀行)のプライベート・バンキング部門の子会社。2009年に華僑銀行がINGグループのING Asia Private BankをUS14.6億ドルで買収し、社名を変更した」という設定は、まんま実在のBOSなのだった。勿論、野村證券は実在の野村證券であります。

Photo 『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(清武英利著/2016年7月紙版刊・2016年8月1日電子版刊)

「プライベートバンカー」とはタックスヘイブンあるいはオフショアといわれる国で、富裕層の資産を守る銀行員のことである。といっても日本国内の銀行員を想像するとかなり違うようで、むしろ客を取り合っている証券マンのもっと猛烈なスタイルみたいな感じだ。

『プライベートバンクはもともと欧州の階級社会の中から生まれている。王侯貴族など超富裕層の資産を管理し、運用する個人営業の銀行(private bank)が原型で、資産家のために働くバンカーだったから、ある時は「カネの傭兵」と呼ばれ、あるところでは「マネーの執事」と言われた』

『日本の金融業界は銀行、証券、信託、保険という分業で成り立ち、しかも国自体が郵便貯金や銀行預金など有力な資金の受け皿を保護し、強く後押ししてきた。そのため、国民は海外で発展を続けたプライベートバンクにはなじみがないのだが、日本からの陸風を察知したBOSは日本人富裕層を対象にした「ジャパンデスク」をいち早く構え、次々に日本人スタッフを揃えようとしていた』

『プライベートバンカーの仕事は三つしかない。一つ目は、ビリオネアの口座を銀行に開設させること。二つ目はその口座に彼らのカネを入金させること。そして三つ目がそのカネを運用して守ることである。シンプルな世界だ』

 オフショアというとアジアでは香港、シンガポールが有名だが、香港はイギリスが作ったオフショアであり、シンガポールはリー・クァンユーが独裁政治の一方で行った経済政策としてのオフショア化なのである。

『これは資産家全般に言えることだが、その資産も一生の生活をまかなうところを超えて使いきれないほど抱えると、多くの人たちがそれを目減りさせずに跡継ぎに残すことを考える。その点、シンガポールは絶好の地だった。
 第一に、日本以上に治安がよく、時差も一時間しかないうえ、移住者の好む近代的な街並みを備えていた。日本人会や学校などの施設も完備され、二〇一〇年十月時点で日本人が二万四千五百人も住んでいた。
 日本語が通じるムラがあるということだ。住むだけなら英語もフランス語も国際感覚も必要ないのである。
 第二に、天然資源がなく有力な企業も少ないため、政府が外国人富裕層や外国企業を積極的に受け入れる政策を採っている。
 第三に、富裕層誘致のため相続税や贈与税などを廃止したオフショア(offshore)、つまり課税優遇地である。地方税やキャピタルゲイン(債券や株式の売買益)課税もなく、所得税率も最高で二十%と日本の半分以下だった。
 第四に、外国人富裕層は事実上、永住権をカネで買うことができた。資産さえあれば快適な永住が約束されていたのである。
 そして第五に──たぶんここが彼ら資産家にとって一番重要なのだが──日本の税法には抜け穴があって、そこを巧く突けば相続税を払わずに資産を継承できる。現地では、「相続後には晴れて日本に戻れる」と言われていた。
 その大きな抜け穴が、通称「五年ルール」である。簡単に言えば、被相続人(親)と相続人(子)がともに五年を超えて日本の非居住者であるときは、日本国内の財産にしか課税されないのだ。
 逆に言えば、五年以上、日本の非居住者であれば子や孫に相続したり贈与したりしても海外の資産には日本の課税が及ばない』

 しかし、主人公の杉山が野村證券を辞めて移ってきたバンク・オブ・シンガポールはだいぶ予想とは違うところのようだった。

『「杉山さん、ここは日本ムラみたいなところなんですよ」
 社員の一人が杉山の耳元で囁いた。はっとする一言だった。
「だから、ムラの様子がわかるまでは、あまり動かない方がいいですよ」

『バンカーが辞めると、彼が集めて管理していた顧客の資産の多くは桜井か梅田の担当となり、顧客資産から毎年生まれるカストディアン・フィー(信託報酬)も、彼らが山分けするのだという』

『シンガポールの外資企業なのに、なんてドメスティックなところだろう。しかし、入社してしまった以上、もう引き返せないのだ』

 というのだが、そのノルマも凄いことないなっている。

『1.一年以内に一億米ドルのAUM(Assets Under Management=運用資産残高)を集めること。
 2.レベニュー(revenue=収益)は百万ドルをターゲット(目標)とすること。
 これを簡単に書き直すと、
 1.自分の力で一年以内に一億ドルのカネを集め、
 2.百万ドルの収益を挙げろ
 ということになる』

 このとてつもない競争社会で生きながら、杉山は様々な日本人たちを見ることになる。しかし、その大半は「無為に5年間を過ごす寂しい人たち」の姿だった。多分、彼らだってシンガポールに来るまでは猛烈に働いてきた人たちだったんだろう。しかし、日本の「5年ルール」をクリアしようとしているのだが、シンガポールで新たに仕事を始めるのはとてつもなく大変なことだった。一方、既にその手にしている資産をプライベートバンカーに預けておくだけで、資産が資産を生むようになっているのだ。

 なので、彼らは何もしない毎日を過ごしながら5年間が過ぎるのを待っている。

 杉山はヘッドハンターの訪問を受けて、それに応じる。

『「この会社ならばどうですか? シニア・バイス・プレジデント(副社長)として、ジャパンデスクを立ち上げていただきたいという依頼です」
 彼が提案した会社は、イタリア五大銀行の一つである「Unione di Banche Italiane」のシンガポール支店だった。
「ユニークなところですよ。プライベートバンクというよりは、ファミリーオフィスを提供する会社と言った方がいいでしょうね。究極の富裕層コンシェルジュですよ。英語を話せない日本人の富裕者一族に金融から保険、税務まですべての面倒を見てあげるわけです。そのゲートキーパー(門番)です」 』

『ファミリーオフィスは富裕層ビジネスの一つで、プライベートバンクをより高度化したサービスやそのサービスを提供する専門集団を意味する。資金管理や運用をするだけではなく、契約した富裕層ファミリーの資産状況に合わせて住居や教育、老後のライフプランに至るまで助言し、一族の面倒を見るのだ』

『「違う表現をすると、UBIはお客さんとプライベートバンクの真ん中に位置しているわけだよ。プライベートバンクは自分のところの商品を売り込もうとするし、事情を知らない日本人からは高い手数料を取ろうとするよね。それがビジネスだから。だけど、うちならUBSであろうと、クレディ・スイスであろうと、どこが勧める金融商品でも提供できる。いま杉山さんがいるBOSに口座を置いたまま、別の銀行や保険会社などの商品を提供してもいい。特定の銀行や保険会社の商品を押し付けるのではなくて、一番いいものを推薦してお客さんに選んでもらえる。門番がまず提案を受けて、お客さんのニーズに応じてセレクトしていくわけだよ」 』

 この銀行のノルマもBOS同様にきつかった。

『彼はUBIに転職する時、ノルマを記したオファーレターを受け取っている。
 1、一年以内に一億ドルの運用資産を集め、
 2、百万ドルの収益を挙げる
 という趣旨の、BOSと同じような契約内容だったが、二〇一二年に挙げた収益は百万ドル以上に達し、八十億円を超す運用資産を集めていた。ノルマをほぼ達成したのだ。ボーナスの歩合もBOSより五%から十二%も高かった』

 所詮、モーレツ社員と知られている野村證券とは変わらないんだよなあ。その辺が、我々マスメディア(と言っても出版社員ですがね)にいた人間と、「お金」を直接扱っている人々との違いなんだ。出版社にとっては「お金」は結果でしかないけれども、彼らにとっては「お金」自体が「目標」であり「仕事の実態」なんですね。いやあ、私はそんな世界にいなくてよかったけれどもね。

 ボスのマルコとも気があっていた。しかし、それもそろそろ潮時かもしれない。

『──これから国税庁や金融庁の監視は、富裕層が国外に貯めた資産やそれを守る海外プライベートバンカーに厳しく向かうはずだ。二〇一四年の確定申告期から国外財産調書制度がスタートするのはその手始めに過ぎない。規制官庁がどう出てくるのか、その情報こそがモノを言う』

 所詮「他人の金」でしょう?

『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(清武英利著/2016年7月紙版刊・2016年8月1日電子版刊)

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