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2015年11月10日 (火)

『彼女は一人で歩くのか?』はある種、暗黒の未来図

『知っているかな。平均寿命が七十か八十くらいのときに、高齢化社会という言葉があったんだよ』

 というのは今現在の我々が生きている時代のこと。

 そこから何年先の話なんだろう。

『それは、君が若いからだろうね。うーん、いくつだね?』
『今年で八十になります』
『そうか、私の半分だ』

 という会話はちょっと不気味ではある。

 どんな世界なんだろうか。

『国際紛争は、世界政府の誕生を機に減少の一途を辿っている。資本主義は崩壊したが、持続・維持を合理的にデザインする社会になった。人口が増えないことで、これは、なるべくしてなった選択だったといえる』

 しかし、これはまさしくジョージ・オーウェルの『1984年』の世界じゃないか。

Photo 『彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?』(森博嗣著/講談社タイガ/2015年11月1日刊)

 これは「高齢化社会」の行きつく先のお話しなんだろう。

『人間の子供は、今ではほとんど存在しない。絶滅したといっても良い。世界中を探しまわれば、もちろんいるはずであるが、先進国では特に少ない。国内では、測定データを採ることは絶望的だ。一方、ウォーカロンについては、十四歳以下は、メーカが製品として出荷できない規定になっている。一部に例外が認められることがあると聞いていたが、その例外とはどんなものなのか、僕は知らなかった』

『人工細胞の移植技術によって、人間の寿命は半永久的に長くなった。躰のどの部位も代替できるからだ。資産さえあれば、それが可能だ。自分の命をいくらでも買える時代になったといえる』

『生きた人間の方が子供を作れなくなっていることが明らかにされた。それは、人間がウォーカロン化したともいえる。明らかにこれは、人工細胞の移植が原因だろう、と考えられるようになった。あまりにもピュアな細胞に問題があるのではないか。ピュアゆえに、未知の病原体に対する抵抗性を持たない、それが原因だろうと推定された』

『下品な言い方をあえてすれば、貧しい者は老いて、寿命が尽きた。結果として、比較的文明圏において人口が保持されている。増えてはいないが、減る速度を遅らせるエネルギィを温存していたためだ』

 高齢化することによって、人間の生殖能力は衰え、子供ができなくなってしまった。そのために「ウォーカロン」が作られたのだが、しかし、そのウォーカロンには生殖の力は与えられなかったようなのだ。というか、その「ピュアな細胞」しか人間には作れなかったので、その「ピュアゆえに」再生産ができない状態になったという。

 じゃあ、もっと研究が進めばウォーカロンの再生産(要は生殖活動)が可能になるってこと?

『初期のウォーカロンは、外部からエネルギィの充塡を受けなければならなかったが、それは機械的にそれだけ非効率であり、また余裕のある出力で設計されていたためだ。人工細胞が躰のほとんどを占めるに至って、外部エネルギィも必要なくなった。肉体的には人間と同じだ。また、頭脳活動は人間をはるかに上回るものの、ここではエネルギィをさほど必要としない。多少、人間よりも多くを食べなければならない、というくらいではないか。おそらく一割程度の増加で充分だと思われる。消化器を最適なものに取り替えるだけで、これは簡単に解決する。
 ウォーカロンは、しかし、発育の過程でも、プログラムのオプションをポスト・インストールされる』

『計算と解析、つまりは処理の正確さと精密さだけが問われるものであれば、彼らは人間よりも優秀だ。コンピュータの系列なんだから、当然だ』
『何が不得意なのですか?』
『うん、まあ、簡単にいえば、インスピレーションだね』

『ウグイが見舞いにやってきた。単なる見舞いではなく、二つの用件があった。一つは、ミチルの家の情報で、保護者である祖父と祖母の名前と顔写真を見せてくれた。いずれも心当たりはない。ごく普通の家庭らしいが、祖父は安全保障省のかなり高い位の現役だそうだ。情報が遅れたのはそのためだという。二人には娘がいたが、事故で亡くなった。このため、その娘の遺伝子から、ウォーカロンを特別に注文した』

『また、特例として、低年齢のうちに引き渡された。教育を自宅で行うこと。その教育に、メーカのサポートが付くこと、などが条件だったという。今も、家庭教師の名目で三人が派遣されているし、その費用もすべて個人で支出している。実験ではない。国はなにも関与していない、とウグイは説明した』

『この時代、生きていることの定義が非常に曖昧だ。人は死なないし、人工知能は、既に人間の能力をはるかに超えている。実際に言葉にする者は少ないが、世界を支配しているのは、その種の完璧な知能であることは揺るぎのない事実だ』

 だが、そんな時代ではあっても禁を破って子供を作る人間はいるようだ。

『人工子宮は改良が重ねられ、制御プログラムが頻繁に更新されている』

『成人したウォーカロンに、追加的な細胞変革を促す手法で、これに近いものは、人間でも行われている。古来整形外科と呼ばれる医療技術に近いものだったが、現在は削除したり加えたりすることはなく、細胞が順次入れ替わって、全体の形を変える』

『どこかでまだ人間の子供が生まれているとも聞いている。非常に少数ではあっても、古い細胞が受け継がれ、動態保存されているというのだ。もしそれが本当ならば、そこから子供を作ることができる人間を増やすことが可能だ。時間はかかるかもしれないが、人類が再び地球上で繁栄する未来が実現できる』

 久しぶりに読んだ森博嗣の小説は、ジョージ・オーウェルばりのビッグ・ブラザーが支配する、ある種、暗黒の未来図ではあった。

『彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?』(森博嗣著/講談社タイガ/2015年11月1日刊)

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