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2015年7月28日 (火)

思わず『火花』を買ってしまった

 普段は「○○賞受賞作」というのはまず手を出さないのだ。どうせ既に沢山の人が読んでいるだろうし、そんな本をいちいち紹介する必要はない、ってことで。

 ところが「文藝春秋BOOKSメールマガジン」で「芥川賞受賞作『火花』が電子書籍で発売中です。受賞作が本屋さんで見当たらない時、夜中に急に読みたくなった時、電子書籍で受賞作をお楽しみください」って書いてあるので、思わずポチしてしまった。

 う~ん、私の負け?

 ということで、第153回芥川龍之介賞受賞作、又吉直樹著『火花』だっ!

Photo 『火花』(又吉直樹著/文藝春秋/2015年6月20日刊【電子版】)

 ピース又吉がモデルらしい主人公のスパークスの徳永と、いろいろな先輩芸人からその造形をとったらしいあほんだらの神谷の話である。

『「申し遅れたのですが、スパークスの徳永です」とあらためて挨拶すると、その人は「あほんだらの神谷です」と名乗った』

『これが僕と神谷さんとの出会いだった。僕は二十歳だったから、この時、神谷さんは二十四歳のはずだった。僕は先輩と一緒にお酒を吞んだことがなく、どうすればいいのか全然わからなかったのだが、神谷さんも先輩や後輩と吞んだことが今までにないようだった』

『神谷さんは何度も、「ここは俺が奢る」と繰り返していたので、これは半分払えということなのだろうと思い、「払います」と言ったら、「阿呆か、芸人の世界では先輩が後輩に奢るのが当然なんや」と神谷さんは嬉しそうに言ったので、これが言ってみたかったのだなとわかった』

『ずっと、僕は先輩が欲しかった。様々な事務所の若手芸人が集うライブの楽屋などで、先輩と後輩という関係性を持つ芸人同士の楽しげな会話が羨ましかった。僕達には楽屋での居場所がなく、いつも廊下の隅や便所の前で目立たないように息を潜めていた』

 ということで付き合い始めた徳永と神谷だが、神谷が言う「漫才論」が面白い。というか、多少、訳が分からん。

『漫才は面白いことを想像できる人のものではなく、偽りのない純正の人間の姿を晒すもんやねん。つまりは賢い、には出来ひんくて、本物の阿呆と自分は真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できるもんやねん』

『準備したものを定刻に来て発表する人間も偉いけど、自分が漫才師であることに気づかずに生まれてきて大人しく良質な野菜を売っている人間がいて、これがまず本物のボケやねん。ほんで、それに全部気づいている人間が一人で舞台に上がって、僕の相方ね自分が漫才師やいうこと忘れて生まれて来ましてね、阿呆やからいまだに気づかんと野菜売ってまんねん。なに野菜売っとんねん。っていうのが本物のツッコミやねん』

 うーん、なんか哲学的なようで、実は何も語っていない漫才論。結局、こいつ本当のアホちゃうんか? とでも言いたくなるような漫才論でありながら、なんとなく分かるような漫才論。これも漫才、あれも漫才……。

『「お前大学出てないんやったら、記憶力も悪いやろうし、俺のことすぐに忘れるやろ。せやから、俺のことを近くで見てな、俺の言動を書き残して、俺の伝記を作って欲しいねん」
「伝記ですか?」
「そや、それが書けたら免許皆伝や」』

 っていう台詞のやりとりもよく分からない。

 そして少しづつ売れ始めてきたスパークスだが、相方が漫才を辞めるということになって、徳永も漫才への道を諦めてしまう。そういうもんなんだろうか? 相方とそんな深い関係になっていたのなら、もう少し相方がこの小説に登場してくるだろうし、この程度の登場の仕方というのは、そんなに深い関係には思えないのだが……。

 で、あほんだらはたいして売れないまま、その芸風だけはどんどん前衛的になってしまい。ついには神谷は豊胸手術を受けて巨乳になってしまう(?)、えっ? 何で?

『「神谷さん、あのね、神谷さんはね、何も悪気ないと思います。ずっと一緒にいたから僕はそれを知ってます。神谷さんは、おっさんが巨乳やったら面白いくらいの感覚やったと思うんです。でもね、世の中にはね、性の問題とか社会の中でのジェンダーの問題で悩んでる人が沢山いてはるんです。そういう人が、その状態の神谷さん見たらどう思います?」
 僕は自分の口から出た、真っ当すぎる言葉に自分で驚いた。
「すまん。俺な、もう何年も徳永以外の人に面白いって言われてないねん。だからな、そいつらにも、面白いって言われたかってん。徳永が言うてくれたから、諦めんとこうと思ってん。自分が面白いと思うとこでやめんとな、その質を落とさずに皆に伝わるやり方を自分なりに模索しててん。その、やり方がわからへんかってん。ほんで、いつの間にか俺、巨乳になっててん。今では、ほんまに後悔してる。ほんま、ごめん」』

『僕は芸人を辞めて、取りあえずは二軒の居酒屋で休みなく働き生計を立てた。相方は大阪の実家に帰り、携帯ショップに就職が決まったようだった。神谷さんとは時々、連絡を取った。神谷さんの伝記のために書き溜めたノートは二十冊を超えていた。その半分以上は自分やスパークスや恋愛に纏わることだった。この中から、神谷さんを神谷さんたらしめる逸話だけを集めれば、もしかしたら伝記になるかもしれない』

 結局、真面目なだけが取り柄なんだなあ。この徳永っていう男は。

『神谷さんは、窓の外から僕に向かって、「おい、とんでもない漫才思いついたぞ」と言って、全裸のまま垂直に何度も飛び跳ね美しい乳房を揺らし続けている』

 っていう方が、やっぱりシュールだなあ。

 この人は、「本当の阿呆」なのかも知れない。

『火花』(又吉直樹著/文藝春秋/2015年6月20日刊【電子版】紙版は2015年3月15日刊)

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