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2013年12月10日 (火)

『旅行者の朝食』って、何だ?

 ロシア語同時通訳の米原万里さんと言えば「え勝手リーナ」として、イタリア語同時通訳の田丸久美子さん(シモネッタ・ドッジ)、スペイン語同時通訳の横田佐知子さん(ガセネッタ・ダ・ジャーレ)の三人で下ネタ大好きおばさんで、それぞれ名エッセイストだったんだが。

 もういないんだな。

20131206_105255『旅行者の朝食』(米原万里著/文春文庫/2004年10月10日刊)

 この『旅行者の朝食』という不思議なタイトルがどこから来たのか?

 内容は、第一楽章が米原万里さんお得意のロシア・ジョークをベースにジャガイモの歴史など。第二楽章が世界の童話のお話。第三楽章が食べ物にまつわる、もっぱら自分の話。というか、基本的にこの本全体が食べ物に関する話であり、それはつまりソクラテスが『食べるために生きるのではなく、生きるためにこそ食べるのだ』と言ったとか言わなかったとかという話から、『お察しのように、わたしは、この言葉にくみしない。どちらかというと、「生きるために食べるのではなく、食べるためにこそ生きるタイプの人間である』という結論を引き出す通り、まさしく、全体が「食べ物エッセイ」なのでありました。

 で、読んでみるとまさしく『旅行者の朝食』という一節があるのだ。

 ほとんどのロシア人が笑い転げるという小噺。

『ある男が森の中で熊に出くわした。熊はさっそく男に質問する。
「お前さん、何者だい?」
「私は旅行者ですが」
「いや、旅行者はこのオレさまだ。お前さんは、旅行者の朝食だよ」』

 という小噺。

 どこが面白いのか全然わかりませんねえ。

 もうひとつ。こちらもどのロシア人でも大笑いだそうだ。

 でも、こちらも「どこが面白いの?」

『密林深訪ツアーの初日、さっそく参加者からクレームがついた。
「募集パンフレットには、朝食付きとあったのに、どういうことです!」
「そうだ、そうだ、腹ぺこだ。こりゃ詐欺じゃないか!」
 ところが怒れる参加者一同を前にして、ガイドは落ち着き払って次のように告げた。
「皆さん、森の中のあちこちに木の実や茸が隠れています。小川の清流にはイワナが、木陰には獣たちが潜んでいるではありませんか。密林こそ、旅行者の朝食の宝庫なのです」』

 それが氷解するのが、もう一つの小噺である。

『「日本の商社が旅行者の朝食を大量にわが国から買い付けるらしいぜ」
「まさか。あんなまずいもん、ロシア人以外で食える国民がいるのかね」
「いや、何でも、缶詰の中身じゃなくて、缶に使われているブリキの品質が結構上等だっていうらしいんだ」
 どうやら、「旅行者の朝食」という名称の、非常にまずいので有名な缶詰があるらしい。素っ気ない命名がいかにもソビエト的ではある。普通名詞がそのまま商品名になった感じ』

 ということ。

 興味をもった米原万里さんは、ソビエト出張の際になんとかその「旅行者の朝食」を手に入れたそうだ。

『牛肉ベース、鶏肉ベース、豚肉ベース、羊肉ベース、それに魚ベースと、何と五種類の品揃え。で、中身はというと、肉や豆や野菜と一緒に煮込んで固めたような味と形状をしている。ペースト状ほどには潰れていない。そう、ちょうど犬用の缶詰、あれと良く似ている。これに、あとはパンと飲み物があれば、一応栄養のバランスがとれるようになっている。味は……、一日中野山を歩き回って、何も口にせず、空きっ腹のまま寝て、その翌朝食べたら、もしかしたら美味しく感じるかもしれない』

 というシロモノ。まあ、まさしく共産ロシアならではの実質的な(だけの)食べ物なのであるなあ。実質あるのみで、食事は人生の楽しみの一つだという発想がまったくない。それでなくともボルシチを除けば旨いものなんて一切ないロシアである。そのロシアでロシア人が「あんな不味いもの、人の食いもんじゃない」って考えているのだから、たいしたもんだ。っていうか、そういうことは、大概のロシア人はその「旅行者の朝食」を食べているってことでもあるんだなあ。なんか、どんな食べ物なのか、どんな味がするのか、興味がわいてきた。

 とは言うものの、さすがにソビエト連邦が崩壊して資本主義化してから、この「旅行者の朝食」はさすがに売れなくなってしまったのか、最早なくなってしまったようだ。

『ジョークと小噺はロシア人の必須教養』

 という言葉は有名であるけれども、そのロシア人が笑い転げるほどの、しかし、つまらない小噺のネタは意外なところにあったわけだ。

『まずくて売れ行きが最悪な缶詰を生産し続けるという膨大な無駄と愚行を中止するか、缶詰の中身を改良して美味しくするための努力をするよりも、その生産販売を放置したまま、それを皮肉ったり揶揄する小噺を作る方に努力を惜しまない、ロシア人の才能とエネルギーの恐ろしく非生産的な、しかしだからこそひどく文学的な方向性に感嘆を禁じ得ないのだ』

 という米原万里さんの結論は、ロシア人を愛するあまり、それに対する偏愛性を最も表している表現ではある。

 米原万里さん。2006年5月26日逝去。享年56歳。

『旅行者の朝食』(米原万里著/文春文庫/2004年10月10日刊)電子版は2007年7月20日刊・価格はメチャ安。

Dscf11052Fujifilm X10 @Ginza (c)tsunoken

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