映画『テルマエロマエ』の原作使用料のあまりの低さについて
興行収入60億円という大ヒット映画の原作使用料があまりにも低いと話題になっているようだ。
要は2月23日にTBSで放送されたバラエティ番組「ジョブチューン」において、ヤマザキさんが『テルマエロマエ』の映画化に際して受領した原作使用料が100万円でしかなかったと告白して、ネット上で大騒ぎになったことを受けた記事なのだが。ヤマザキさんも自身のブログで弁護士のコメントを紹介してことの成り行きを説明している。
問題は『テルマエロマエ』の版元である㈱エンターブレインのヤマザキさんに対する説明責任である。
ヤマザキさんは100万円という金額に不満があるのではなく、エンターブレインから「なぜ100万円なのか?」という疑問についての説明がなされていないということに不満を述べているのである。
しかし、ヤマザキさんの本音はやはり「100万円という金額の安さ」にもあるに違いない。なにしろ手塚治虫文化賞受賞作で、その他数々のマンガ賞を取り、累計800万部の原作であり、更に映画の製作もフジテレビや東宝などで作った製作委員会である。弱小プロダクションや独立プロデューサーの製作企画ではない。少なくとも500万円くらいの原作使用料の提示があって当然だし、エンターブレインがちゃんとした交渉をすれば1000万円は取れる作品であるはず。
それがヤマザキさんの手に渡ったのがたったの100万円というのはいかにも少ない金額である。エンターブレインがどれだけ中抜きしたのか、あるいは100万円プラスアルファ程度の金額で契約してしまったのか、エンターブレイン側はノーコメントを通しているのでよくわからない。
エンターブレインは角川グループホールディング傘下の会社なのだから、映画会社がどんな考え方をして原作使用交渉に臨むか、どのくらいの金額が原作使用料としては妥当なのかは知っている筈である。
エンターブレインがヤマザキさんとどんな契約を交わしているのかは分からないが、少なくともエンターブレイン窓口でフジテレビと契約している以上は「出版権」以外にも「二次使用権」についての契約もしているのだろう。だったら尚更エンターブレインにはヤマザキさんへの説明責任があるはずである。ところがそれを果たしていないということは、もしかするとエンターブレインは当事者能力を欠いた出版社なのかということになる。
往々にして出版社と作家の立場というのは、このように出版社側に片務的になりかねない関係である。作家にたいして普段は「先生、先生」を持ち上げておきながら、権利の交渉の段になると一段下がった存在として見なしたりするのである。つまり、作家はクリエイティブなことだけを考えていればいい、ビジネスには首を突っ込むなということである。ところが、その出版社自身が、映画製作者に対しても作家に対してもビジネス感覚を欠いた対応をしているのであれば、稚児にも劣る有様というしかない。
上記のヤマザキさんのブログにもあるように、『出版社は自らの立場や権限を死守しようとして、作家に十分な説明をしようとしない・・・。他方、作家は、著作権者であるにもかかわらず、出版社が対外的な交渉窓口を持っているため、自分の作品がどういう条件で売られているかを、知ることすらできない状況に苛立ちをつのらせている・・・』という四宮弁護士が言う通りの状況になっている。
こんな状況の中で出版社側は著作権法を改正して、出版社側に「著作隣接権」を付与させようと動いている。この動きに対して一部の作家や漫画家から懸念が表明されているが、まさに上記のような稚児にも劣る出版社のあり方から考えれば、そのような懸念は正当であるとしか言えないのではないか。
私がこのブログで何度も書いているように、別に「著作隣接権」を予め出版社に付与させなくても、財産権である著作権なのだから、そんなものは出版契約書に出版社側が獲得する権利として「著作隣接権」的な要素を入れ込んでおき、それをきちんと作家側に説明できれば問題はないのである。
そう、キチンとした契約書を作って、キチンと作家に説明すれば良いだけの話。
出版社は著作権をビジネスにしている会社である。ということは当然、編集者はクリエイティブ感覚も必要だが、一方、著作権についてもキチンと理解しており、作家に説明できなければならない。ところが、出版社の新人採用にも、社員教育にもこうした著作権知識についての配慮は、多分、一部大手出版社以外にはまったくされていない。
問題はこうした出版社の姿勢である。
とは言っても、全国で約4000社あると言われている出版社の経営者で、そんなことを理解している人間は殆どいないでしょうけれどもね。そんな出版社には退場してもらって、著作権意識の高い出版社だけが生き残ればいいのである。
多分、そんな時代がいまの電子書籍ブームの先に来るような気がするのだが。
« 『冒険に出よう』と言っても本当に冒険が始まるのはこれからなんだよな | トップページ | 『企業が「帝国化」する』とか言っても、何も怖くはないのだ »
「映画」カテゴリの記事
- 『顔たち、ところどころ』はヴァルダらしいドキュメンタリーだ(2018.10.12)
- Dシネマ映画祭って、何だ?(2018.07.21)
- 大森ベルポート=初芝電産???(2018.06.23)
- After NAB Show Tokyo 2018(2018.05.25)
- 映画『去年の冬、きみと別れ』のカメラが気になって(2018.03.22)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/549500/57095901
この記事へのトラックバック一覧です: 映画『テルマエロマエ』の原作使用料のあまりの低さについて:
« 『冒険に出よう』と言っても本当に冒険が始まるのはこれからなんだよな | トップページ | 『企業が「帝国化」する』とか言っても、何も怖くはないのだ »
コメント