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2013年1月 9日 (水)

『敗者復活戦』の主人公は実は「街」なんですよ

 三人の「アラ還」世代の男が主人公だ。と思ったら、実は本当の主人公は「虹が丘団地」という、古びた団地が主人公なのであった。何故なら、三人の男は別にそんな団地にありふれた住民であるに過ぎないからだ。

『敗者復活戦』(高任和夫著/講談社文庫/2010年10月15日刊)

 彦坂祐介は58歳。早稲田大学を出て商社に勤務。現在は監査部部長補佐というアガリの役職で、妻は子育てを終えてから外資系のホテルに勤めてほとんど家には帰らない生活。彦坂は失踪した同期の栗田を行方を追うことを常務の黒川から命じられる。

 雨宮英夫は61歳。東京大学を出て銀行に勤めていたが、一年ほど前に定年退職。定年後の無聊をかこって酒浸りの毎日を送り、妻は隣街で働いている。自らアルコール依存症であるという自覚がある雨宮は、そんな患者の専門病院に入院する。

 河合健太は63歳。高卒で食品問屋に長年勤め、定年後は二年ほど特別養護老人ホームで運転手の仕事をした後、現在は無職。囲碁、登山、スケッチ、テニスなど多彩な趣味を楽しんでいたが、一人で百日間世界一周の船旅に出る。

 三人の接点は、虹が丘ローンテニスクラブという同好会であり、それを立ち上げた先輩・永井信夫の葬式から物語が始まる。ストーリーは三者三様のままそれぞれが絡み合わずに、単線的に進んでいく。当然である。それぞれの接点は「いまや言いだしっぺのいないテニスクラブ」であり、虹が丘団地そばの居酒屋「まちかど」ぐらいなのである。それ以外の接点はない。

 作者の高任和夫氏は東北大学卒業後、三井物産に勤務し、最後の役職は国内審査管理室長を勤めていたそうだ。そして50歳で作家専業に踏み切るために退社。まあ、言ってみれば、彦坂は高任氏のそんな三井物産最後のサラリーマン生活、雨宮は辞めてからの「なりたくない」一側面だし、河合は別の「理想の」側面なんだろう。そんなリアリティがあるキャラクターである。

 で、最大の主人公「虹が丘団地」は、最初は多摩ニュータウンあたりがモデルかと思ったのだけれども、つくばエクスプレスがちょくちょく話題にでてくるところを見ると、茨城県の守谷市あたりなのだろうか。『むかし道路にあふれていた子供たちは、いつの間にか潮が引くように消えていった。いうまでもなく大学進学とか就職のために家を出ていったのだ。ここに住みついた親たちが、かつて似たような理由で郷里を捨てたのと同じ現象が、新興住宅街といわれた団地にも起きている』と書かれるように、そこに住む住民と同じように、街もやはり年老いていくのである。かつての輝きは失われ、かつてあったパン屋、肉屋、魚屋、八百屋、雑貨屋、床屋、書店など多くの店が無くなり、しかし無くなってもそこに次のオーナーが見つかるわけではなく、年老いた街は次々にシャッターの下りた街になってしまうのだ。

 そんな街に住んでいるのは、年寄ばかり。子ども達の笑い声が聞こえるわけではなく、女子中高生の話し声が聞こえるわけではなく、静まり返った街。もはや、廃れることを受け容れるだけの街なのである。まるで、年寄が自らの生涯を終えることだけを目処に生活しているような。

 そんな「廃れるだけの街」で河合が提案した、虹が丘小学校の絵画用教室を変えたデイサービス施設の話。

『河合は表情を引き締めた。
「ぼくは会社が嫌いだった。でも、会社を離れて気づいた。人は独りでは生きられない。虹が丘ロンテニスクラブは、たしかに孤独をいやしてくれていた。でも、それは遊びだ。一緒に仕事をできれば、まったく違う世界に入り込めるんじゃないだろうか」
「……なるほど」
 と雨宮がつぶやいた。
「あの陰険な医者は、世のため人のためになることをやれといった。でも、難しいなと感じたのは、一人でやるとばかり思っていたからか……。三人で組織をつくれば、乗り越えられるかもしれんな」
「そのとおり」
 河合は厳かな顔をつくった。
「好き嫌いはともかく、われわれはサラリーマンだ。一人ひとりは弱い。だが悪いことばかりじゃないぜ。連帯すれば何ごとも為しうると知っている」
「……そういうことですか」
 彦坂は腑に落ちるものがあった。
「わかりました。やってみますか」』

 なんか勇気づけられる結論だなあ。お年寄りの世話というのが、ちょっと私には難しそうだが。

 もうひとつ、気にいった台詞をひとつ。

『西洋の諺に、ロバは旅に出ても馬にはならないってのがあるらしいね』

 そう、旅に出るだけじゃ「ロバはロバ」。馬になるためには、いろいろ「経験」と「勉強」をし、自分の頭で考えることをしなければならない。まあ、普通の観光旅行じゃ馬にはなれないということなんだなあ。

 

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