フォト
無料ブログはココログ

Amazonウィジェット

  • Amazonおまかせリンク
  • おすすめウィジェット
  • Kindle

« 開成が強い! のか、國學院が弱い! のか | トップページ | 『ツイッターを持った橋下徹は小泉純一郎を超える』と持ち上げる前に、もっと他の人を探そうよ »

2012年7月17日 (火)

『苦役列車』の原作の鬱陶しさ、映画の清清しさ。どっちを見りゃいいんだ?

 原作は鬱陶しいだけの青春人足小説(そんなのがあるのか?)だが、原作にないたった一人の登場人物を一人加えるだけで、映画はいわゆるよくある「ほろ苦い青春ドラマ」になるのであった。

『苦役列車』(監督:山下敦弘/脚本:いまおかしんじ/原作:西村賢太/製作:東映東京撮影所/2012年7月12日公開)

Tbn_30bb8aa26c09306a
http://www.kueki.jp/index.html

 原作の北町貫多(森山未來)は、なんか中卒であることを、時にはコンプレックスを露に、そして時には変なプライドを持って考えている、如何にも「中二病」な奴である。貫多と付き合う日下部正二(高良健吾)は、貫多からみれば「ごく普通の専門学校生」。この二人の港湾日雇い労働者が殆どの出演者である。貫多が昔付き合っていた熊井寿美代も、貫多が想像の中で犯す、正二の彼女・鵜沢美奈子も、結局は作品の中で貫多とは直接の関係のない女たちなのだ。

 で、そこで貫多が憧れ、次に「友だち」になる、古書店のアルバイター、法政大学に通う苦学生(って古いなあ)桜井康子(前田敦子)という実態としての「女」を映画では登場させるのである。ところが、この康子の存在が、本来は鬱陶しいだけの原作世界を、なんか先のありそうな「青春ドラマ」に変質させてしまったのである。

「友ナシ、金ナシ、女ナシ。この愛すべきろくでナシ」という映画の惹句は、本来原作小説の惹句であるはずなんだけれども、映画ではセックスさえさせてもらえなかったけれども、「友だち」としての康子が貫多にはいたじゃないか。最後に、セックスをさせてもらおうとして、「もうおしまいね」とシッカりフられる貫多ではあるけれども、しかし、フられた結果として、そこには港湾日雇い労働者である日常とは決別しようという貫多の心意気が出てくるのではないか?

 本来、それは原作にはない心意気である。原作のラストシーンは『最早誰も相手にせず、また誰からも相手にされず、その頃知った私小説家、藤澤錆造の作品コピーを常に作業ズボンの尻ポケットにしのばせた、確たる将来の目標もない、相も変わらずの人足であった』と終わるのであるが、映画のラストシーンは、何故か街場でしなくてもいい喧嘩をして身ぐるみはがれた貫多が何故か空から降ってきて、自室に戻るとやおら紙と鉛筆を持ち出して小説を書き始めるのである。

 しかし、それはもしかすると「私小説」に対する裏切りではないのだろうか。

 原作小説の主人公・貫多は西村賢太氏自身であることは、西村氏自身が認めているところでもあるし、「北町貫多=西村賢太」として描くことは、西村氏自身が認めていることであるわけなので、べつに「原作者→映画製作者」の間のやり取りとしては、何の問題があるわけではないが、しかし、それは「原作」に対する裏切りではないのだろうか?

 勿論、原作に書かれていないことを映画の脚本に書くことには何の問題もない。しかし、本来は原作私小説を書いた人の姿を、原作にもないのに、映画で描くっていうのはどうしたもんだろうか。おまけに、その結果、原作の魅力である「鬱陶しさ」がなくなって、「前向きな青春ドラマ」になってしまっては、原作の鬱陶しさを楽しんでいた読者には、少なくとも裏切りである。まあ、もっとも映画しか見ない人には、原作にある鬱陶しいだけの話よりは、少しは前向きのお話になったほうが読後感があるのでいいのかもしれない。

 まあ、鬱陶しいだけの原作の世界観を楽しむのか、少しは前向きな「青春ドラマ」を楽しむのかは、読者(観客)の好きずきであるから、そのどちらを楽しんでも良い。当然、原作から映画へと移り変わる行程は決してリニアであるわけはないのだから、原作が映画化されることでいくら変質しても良いのだ。

 ただ、その変質の仕方が「原作への裏切り」になる、ということを言いたかっただけ。

 最後に、原作でも映画でも一番決め手になる台詞。まさしく、貫多の中二病ぶりを明かす大事な台詞を紹介する。

『出たぜ。田舎者は本当に、ムヤミと世田谷に住みたがるよな。まったく、てめえらカッペは東京に出りゃ杉並か世田谷に住もうとする習性があるようだが、それは一体なぜだい? おめえらは、その辺が都会暮らしの基本ステイタスぐれえに思ってるのか? それもおめえらが好む、芋臭せえニューアカ、サブカル志向の一つの特徴なのか? そんな考えが、てめえら田舎者の証だってことに気がつかねえのかい? それで何か新しいことでもやってるつもりなのか? 何が、下北、だよ。だからぼくら生粋の江戸っ子は、あの辺を白眼視して絶対に住もうとは思わないんだけどね』

 まあ、これが江戸川区の外れ浦安に近いところで生まれ、その後原木中山、町田と移り住んだ奴のいうことである。

 何が「江戸っ子」だ、バカヤロ。

« 開成が強い! のか、國學院が弱い! のか | トップページ | 『ツイッターを持った橋下徹は小泉純一郎を超える』と持ち上げる前に、もっと他の人を探そうよ »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/549500/55209466

この記事へのトラックバック一覧です: 『苦役列車』の原作の鬱陶しさ、映画の清清しさ。どっちを見りゃいいんだ?:

» 引き出物に驚いてしまった [優雅なベルに出遅れ!]
旦那さんが会社の同僚の結婚式に行った [続きを読む]

» 映画「苦役列車」原作を60%くらい薄めた作品 [soramove]
「苦役列車」★★★☆ 森山未來、高良健吾、前田敦子出演 山下敦弘監督、 113分、2012年7月14日公開 2012,日本,東映 (原題/原作:Les Neiges du Kilimandjaro ) 人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい← 第144回芥川賞を受賞した西村賢太の 「苦役列車」の映画化 「原作を読んいるから主演の森... [続きを読む]

« 開成が強い! のか、國學院が弱い! のか | トップページ | 『ツイッターを持った橋下徹は小泉純一郎を超える』と持ち上げる前に、もっと他の人を探そうよ »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

PEN PEN チョートクカメラ日記

自転車フォトグラファー 砂田弓弦

シュクレはお留守番

アローカメラ&我楽多屋

まだ東京で消耗してるの?