『地名に隠された「東京津波」』というより、単なる「東京地名研究」でしょ
なんか「東京津波」っていうのはあまりリアルに感じられないし、とは言うものの、もし東京湾に10メートルの津波がきたらどうなるかっていうのは想像できないし、とりあえず日比谷、日本橋の埋立地から東は全滅だってことは分かっているんだけれども、でも東京湾に10メートルの津波がくるってことが、まず信じられない。しかし、それを想定していくと………。
『地名に隠された「東京津波」』(谷川彰英著/講談社+α新書/2012年1月20日刊)
谷川氏は『昨今の東京人を見ていると、この東京の町の地形、特にその土地の高低感が失われているように見えてならない。どこの繁華街に行っても同じように見えてしまう。新宿も渋谷も池袋も同じような町に見えてしまう。人々は超高層ビルを見つめ、人々が行き交う通りをぬって歩くだけだから、同じなのである』というけれども、しかし、山手線や京浜東北線に乗って上野から赤羽方面に行けばいやでも、武蔵野台地とその東方に広がる低地の存在を知らされるし、京浜東北線の鎌田から先に行けばやはり、海岸段丘の姿を知ることになる。
さらに、たとえば『タモリのTOKYO坂道美学入門』なんて、エンターテインメントの本ですら東京の高地と低地を結ぶ坂道についての話題を提供しているし、港区、文京区、千代田区、渋谷区あたりを動いていればいやでも坂道を通らなければならず、その度にその地域の名前を確かめてみれば、その低地についた名前を見ればそれらしい名前がついていることを発見できるのだ。
要は「谷」「窪」「久保」「沢」「池」「落合」「池尻」「江」「川」「砂」「浜」という字がついた場所には住むなというのが、昔から言われている言葉である。しかし、そうは言ってもなかなかそのようには出来ぬから難しいのであって、ご予算との関係からもそうそう住みたいところに住めるわけではない。だったら、せめてそうした危険地帯に住まねばならなかった人たちが、どうすれば良いのかを示してほしいところなのだが、谷川氏は地震の研究家ではないので、それは出来ない。
ということで、谷川氏は最終章にビルと契約して津波が来た際にそのビルに逃げ込めるようにしたらどうかとか、スーパー堤防をつくれとか、せめて『津波から逃れるためには、あなた自身が立っているその土地が標高何メートルあるのかを常に意識することである。地震がいつ起こるかを予知することではなく、いつ来ても構わないようにまず足元を見つめることがあなた自身の命を救うことになる』というのだが、それも心もとない。
やはり谷川氏は地名の研究家であることは知られているが、それ以上に地震の研究家ではないのだ。勿論、地名から考えて災害にあいやすい土地というものはあるのだが、それは地震研究からしてみれば、様々な要素のひとつでしかない。そんな、地名研究から東京全体の地震をさける研究というのは、多分、ちょっと大風呂敷を広げすぎたようで、結局、タイトルとは別に、東京地名研究という枠から出ることはなかった、というのが本書なのである。
勿論、だからと言って本書の価値が落ちると言うわけではなくて、それはそれでいいのだが、地震と絡めた論の展開にはなっていないということなのだ。
純粋に、「東京地名研究」というだけでも良かったのにね。
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