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2012年2月23日 (木)

『マレー蘭印紀行』を読む。「マレー蘭印」に行きたくなる

『12万円で世界を歩く』下川裕治氏のルポをアサヒ・コムで読んで、どこか読みたくなって買ってしまったのである。金子光晴氏のゆったりとした、しかし貧乏な旅に比べて、下川氏の旅は2泊3日という慌しいものであった。それでも、まだ「南洋」というに相応しいこのマレー蘭印の旅は、どこか魅惑に富んでいる。

『マレー蘭印紀行』(金子光晴著/中公文庫/1978年3月10日初版・2004年11月25日改版)

『川は、森林の脚をくぐって流れる。……泥と、水底で朽ちた木の葉を灰汁をふくんで粘土色にふくらんだ水が、気のつかぬくらいしずかにうごいている。』

『マレー蘭印紀行』の書き出しである。なんときれいな詩人の文章であろうか。私には絶対書けないなあ。

『南洋の部落のどこのはずれへいってもみうける支那人の珈琲店がこの河岸の軒廊のはずれにもあった。

 その店に坐って私は、毎朝、芭蕉(ピーサン)二本と、ざらめ砂糖と牛酪(バタ)をぬったロッテ一片、珈琲一杯の簡単な朝の食事をとることにきめていた。』

 なんて文章を読むと、私もマレーシアでそんな朝食をとりたくなるから不思議である。

 中でも、その美しさを謳いあげた『珊瑚島』という一編の美しさは格別である。

『ながい年月にさらされ、波浪に洗われた珊瑚虫のからだが積みかさなって、波打ち際をつくっていた。

 軽くて、まっしろで、かる石のように無数の小孔のあいた、細ながい舎利骨片が、なみうちぎわをつくっているばかりではなく、小島全体をもりあげているのであった。小島を形成しているだけには止まらず、小島に近いまわりの海底までを、その珊瑚屑でぎっしりとうずめているのであった。

 裸足のままで、海の浅瀬に立つことはできない。波打ち際をひろい歩きすることもできない。舎利のとがり足のうらを刺し、いるにいられないからだ。』

『小島のしげみの奥から、影の一滴が無限の闇をひろげて、夜がはじまる。

 大小の珊瑚屑は、波といっしょにくずれる。しゃらしゃらと、たよりない音をたてて鳴る南方十字星(サウザン・クロス)が、こわれておちそうになって、燦めいている。海と、陸とで、生命がうちあったり、こわれたり、心を痛めたり、愛撫したり、合図をしたり、減ったり、ふえたり、又、始まったり、終ったりしている。

 諸君。人人は、人間の生活のそとにあるこんな存在をなんと考えるか。

 大汽船は、浅洲と、物産と交易のないこの島にきて、停泊しようとしない。小さな舟は、波が荒いので、よりつくことが滅多にできない。人間生活や、意識になんのかかわりもないこんな島が、ひとりで明けはなれてゆくことを、暮れゆくことを。人類世界の現実から、はるかかなたにある島々を、人人は、意想(イデア)とよび、無何有卿(ユートピア)となづけているのではあるまいか。』

 などという文章を読んでしまうと、なんか私のようなマズい文章書きは恥ずかしくなって、思わず『珊瑚島』前文を引用してしまいたくなる。しかし、そうもいかないから上の部分だけの引用ですませるけれども、さすがにいかにも昔の詩人の文章とはなんと美しいものだろか。

 金子氏は『跋』で『ただ行文拙劣、観察浮簿をまぬかれず、精進の途にある一文筆人のこの一足跡に大方の批判鞭撻を待つものである。』なんて書いているけれども、とんでもない! このように美しい文章をかける人を私は知らない。

 なんか、私も下川氏と同じように2泊3日でマレーシアに言ってみたくなったきた。

 その意味では、『マレー蘭印紀行』の狙いはバッチリ決まっているのである。

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