『たのしい写真』は本当にたのしく写真を撮るためだけの本だ
つまり、「写真」は「真実」を「写す」ものではないということ。
『たのしい写真 よい子のための写真教室』(ホンマタカシ著/平凡社/2009年6月1日)
一昨日「ニュー・ドキュメンタリー」という写真展を見に行ったのだが、そのホンマタカシ氏の写真の本について書こうか。
まず、目次から;
1.講義篇 02 私家版 写真の歴史/03 年表Ⅰ カメラオブスキュラ~決定的瞬間/04 決定的瞬間/05 小型カメラ「ライカ」が変えた/06 年表Ⅱ 決定的瞬間~ニューカラー/07 ニューカラー/08 決定的瞬間派とニューカラー派、露出はどうやって決めるか?/09 カラーのトーンを決める/10 5つの世界観/11 生態心理学者の佐々木正人さんと話す/12 ポストモダン/13 時代は変えられた?/14 私的な小さな物語/15 現代美術と写真/16 4つの視点/17 振幅するエグルトン/18 スタイルチェンジ
2.ワークショップ篇 19 今日の写真を読むためのワークショップ その1.[写真を読む]/20 今日の写真を読むためのワークショップ その2.[写真を疑う]/今日の写真を読むためのワークショップ その3.[写真に委ねる]
3.放課後篇 22 ポストカードからはじめよう!/23 慌てて買わなきゃ! プラウベル・マキナ/24 ニューヨークが教えてくれたこと/25 オールオウスト・フランク/26 暗室ポートレイト/27 最初が肝心! は・じ・め・て・の写真/28 ライカ対ミノックス/29 ドキュメンタリー=現実?/30 被写体を分類してみたら、面白いこと、発見しました/31 謎の山岳写真家寅彦、現る!/32 ポラロイド=センチメンタル・ジャーニーby松本伊代/33 シュルマンおじいちゃんの建築写真教室
4.補習篇 34 堀江敏幸さんとの対話 すべての創作は虚構である?
という、取り敢えずは「大学の一般教養の教科書」というイメージでホンマ氏は書いたそうな。しかし、基本的なことを言ってしまうと、上に書いた通りの「写真は真実を写すものではない」という結論ひとつになってしまうのだ。つまり、ホンマ氏が「ニュー・ドキュメンタリー」で指示した通り、写真を見てそこに写されているものの何が本当で何が嘘なのか、ということは写した本人ですら最早分からなくなってしまっていて、あとはひたすら風景や人物などの連鎖があるだけである。ところが、人はその写真のなかに何か真実があると考え、そこにある真実を探そうとする。しかし、写真に写されているのは事実のうわべ、表面的な事実のみなのである。それはアンリ・カルティエ=ブレッソンの「決定的瞬間」であろうが、ウィリアム・エグルトンの「ニューカラー」であろうとも、写真が写し取っているのは「表面的な事実」のみであることには変わりはない。
では人々が求めている写真の真実とは何なのだろう。もしかすると、それは写真を見る人が勝手に写真に付与する、見る人の情報なのではないだろうか。上記目次の中の「20 今日の写真を読むためのワークショップ その2 写真を疑う」で示されている長島有里枝氏の「家族写真」の嘘や、ホンマ氏の「My Daughter」の嘘、リチャード・プリンスの「Untitled (Cowboy)」という複写などは、まさしく写真を見る側の特権的な「思い入れ」だけでその写真の意味が成立してしまうというよい例である。
ホンマ氏が本書の中で述べているとおり(堀江敏幸さんとの対話)『写真にとっての真実というのは、写真家がその場所にいたということしかないというのは本当にそうだと思います。まったく同じ場所で後日同じように撮っても決して同じようにはならない。その1回性が写真の真実=リアルだと思います』ということなのだろうな。つまり写真家がその日、その場所にいて、シャッターボタンを押した、という事実だけ・・・。でもそれが重要・・・。ということ。
まあ、写真家がこの本を読んで何かが変わるということはまずないだろうし、写真愛好家がこの本を読んでも彼らの姿勢に変わることもないだろう。ただし、基本的な「写真が真実を写さない」ということだけが分かっていればよろしい。
まあ、そういうことです。
貴方も写真を撮るときに「これが真実だ」ではなく「これが表面的な事実にすぎない」という発想で写真を撮ればそれでいいのだ。
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