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« アンヌ・ヴィアゼムスキーを囲んだシンポジウム | トップページ | 原宿 渋谷 街角のオブジェ »

2010年11月20日 (土)

少女はどのようにして大人の女になるのか

 で、昨日のシンポジウムに引き続き、今日はその本体たる小説について書きます。 

 要は、「少女はどのようにして大人の女になるのか」という話である。

『少女』(アンヌ・ヴィアゼムスキー著/國分俊宏訳/白水社/2010年10月30日刊)

 前作『ジャンヌ・ダルク裁判』で主演をしたフロランス・ドゥレに紹介されてロベール・ブレッソンに引き合わせられた無名の(?)高校生の少女はフロランスの予言通りブレッソンに気に入られ、次作『バルタザールどこへ行く』の主役の座をつかむ。本作の主役の少女、アンヌ・ヴィアゼムスキーはそんな形で映画作りの現場に初めて足を踏み入れて、ブレッソンの特異な映画作りの中で、大人の女になって、職業俳優になるのだ。

 しかし、少女はどのようにして大人の女になっていくのか。

 淡い恋心を抱いた青年との一夜のアバンチュールによって処女を失い、そして青年の裏切りに合うことを通じてだろうか。あるいは、老ブレッソンから恋にも似た想いを寄せられ、さまざまな身体接触を試みられることを拒み続け、そして最後にはそうした身体接触を受け容れられるようになることからだろうか。撮影現場で唯一アンヌに優しく接してくれる撮影監督のギラン・ロケと出会えたからだろうか。フロランス・ドゥレから独裁者ロベール・ブレッソンへの献身者として仲間入りを許されたからだろうか。ブラジャーとスリップだけでカメラの前に立つことを拒んだアンヌに対して掛け布団をつけて演技をすることが許されたからだろうか。いつまでたっても台詞を旨く喋れないヴァルテルに腹を立てるブレッソンに付き合ったからだろうか。音響技師のアントワーヌ・アルシャンボーが、バルタザールを丁度旨いタイミングでいななかせる方法をあみ出したからだろうか。アンヌを平手打ちする青年に対して「アンヌに痛みを与えてはいかんぞ!」とブレッソンは言っておきながら、実は青年がアンヌに対して思い切り平手打ちをするように指示していたことが判って、ブレッソンの裏切りを知ったことによるものか。または、ジャン=リュック・ゴダールがブレッソンを取材に来たのは、実はブレッソンなんてどうでもよくて、「フィガロ」紙に載ったアンヌの写真に一目ぼれして、ブレッソンをダシにしてアンヌに近づきたかったからだということが判ったからだろうか。

 いやいや、実はそのすべてが「映画=シネマトグラフ」なのである。「映画作り」というのは、大勢の赤の他人が集まって、つまり異なった価値観を持った人間が集まって、しかし同じ目標「映画を作る」という目標に向かって、スケジュールつまり予算と戦いながら突き進むという、大きなエネルギーの塊のような存在なのである。そんな、大きな存在の中で、それを始めて体験する少女は自分が奔流に流されながら、エネルギーに突き動かされて、しかし、主役という自らの存在から逆にそのエネルギーを生み出す存在になっていくことを覚え、その結果「大人の女」になっていくのである。映画というものはそれだけのエネルギーを持った存在なのだ。

「スタンバイ!」

「ローリン!」

「アテンション・・・アクション!」

 そして

「カット!」

 で終るすべての映画の中に。

 そして、結局「職業俳優」という自己表現方法を選び取っていくアンヌ。しかし、アンヌにとっては女優というのも自らの唯一の職業、唯一の自己表現方法ではなかった。いまや、もうひとつの自己表現方法たる「作家」となっている。しかし、ブレッソン映画のヒロインたちは、先のフロランス・ドゥレもいまや作家でアカデミー・フランセーズの一員となっている。ブレッソン映画のヒロインふたりがふたりとも作家になっているというのも、ブレッソンにはそんな、他人まで作家に育て上げるエネルギーがあったということなのだろうか。

 しかし、ちょっと残念なのは、せっかくジャン=リュック・ゴダールとの出会いの話を、ゴダールをコケにしながら描いているのだから、その後の話も読みたかった。つまり、どうやってゴダールは自分の惚れた女を『中国女』のヒロインを演じるように口説いたのか、そして『万事快調』でスチールを担当したアンヌ=マリー・ミエヴィルをどんな風に口説いて、モノにしたのかというゴシップ的な、あるいは「実録小説」的な興味。実録とはいえあくまでも「小説」であるのだけれどもね。

 まあしかし、そんなゴシップネタは小説にはしないだろうな。そんな気高さがアンヌ・ヴィアゼムスキーには感じられる。

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