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« 『イッツ・オンリー・トーク』VS.『やわらかい生活』裁判が結審・・・エッ、何で? | トップページ | 駒込天祖神社の祭礼 »

2010年9月12日 (日)

『芋虫』は『キャタピラー』よりエグい、がエグい分だけ反戦的ではない

 若松孝二が『キャタピラー』の原作としたのだけれども、原作使用料を払うのを嫌って「原案」ということにした江戸川乱歩の『芋虫』は、『キャタピラー』よりずっとエグい。が、そのエグい分だけ反戦思想は薄い。しかし、この作品が発表された昭和4年には左翼から反戦小説として絶賛されたというのだから、それも時代の流れというものだろうか。

『芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション2』(江戸川乱歩著/角川ホラー文庫/2008年7月25日刊)

『芋虫』の須永中尉は『キャタピラー』の黒川少尉よりもっとひどい状況であるようで、それは「左の耳たぶはまるでとれてしまって、小さな黒い穴が、僅かにその痕跡を残しているに過ぎず、同じく左の口辺から頬の上を斜に目の下のところまで、縫い合わせた様な、大きなひッつりが出来ている。左のこめかみから頭部にかけて、醜い傷痕が這い上っている。喉の所がぐいと抉った様に窪んで鼻も口も元の形を留めてはいない。そのまるでお化みたいな顔面の内で、僅かに完全なのは、周囲の醜さに引かえて、こればかりは無心の子供のそれの様に、涼しくつぶらな両眼であった」という表現にあるように、『キャタピラー』の黒川少尉よりもひどい状況に『芋虫』の須永中尉はさらされている。

 問題は、黒川少尉の場合は最初は(ひどい状態で帰ってきてからの最初)黒川の求めに応じてセックスをしたシゲ子に対して、この須永の場合は初めから妻時子の方からセックスに対して積極的なところだ。下宿させてもらっている鷲尾老少将のところから帰ってきた時子は、『「そんなに癇癪おこすもんじゃないわ、何ですのよ。これ?」時子はそう云って、手でご飯を食べる真似をして見せた。「そうでもないの。じゃ、これ?」彼女はもう一つのある恰好をして見せた。』というように、物語の最初から性に積極的である。まるで、手足と顔を失った夫に残されたものは、下半身の生殖器しかないような発想である。

 その後も、そうした時子からの積極的な性的結合のエピソードがいくつもある。『いつもこうした痴話喧嘩の末には、お互いにもどかしくなってしまって、最も手っとり早い和解の手段をとることになった』とか、『時子は、いつもの通り、ある感情がうずうずと、身内に湧起って来るのを感じるのだった。彼女は狂気のようになって、・・・・』とか、『今も彼女は相手の心持をいたわるどころではなく、反対に、のしかかる様に、異常に敏感になっている不具者の情欲に迫って行くのであった。』というように。

 そして遂に、時子は黒川の性器以外の唯一の外界との繋がりであった「眼」をつぶしてしまう。こうなったら、黒川の外界との繋がりは性器以外にはなくなってしまうのだ。その時はじめて時子は、須永の「ユルス」という下手な文字の意味するところをわかるというような構造になっている。一方、シゲ子は、元気なころの黒川のシゲ子に対する「産ず女」という叱責や肉体的な虐めの様子を思い出し、黒川とは逆に積極的にセックスを求め始め、ついには時子と同じように、セックスで黒川を虐めるようになるのだ。

 いずれにせよ、四肢を失い、聴覚・言語(おまけに視覚も)失ったときに男は「性欲」だけで外界と繋がりを持てるのか? という問題はある。大体、そんな体の具合で性欲があるのかどうかもよくわからない。

 しかし、時子はそんな夫の世界とのつながりをまさに「性」という部分でしか認めなかった。シゲ子は、まだ人間的な関係のあった夫との関係を想っている。

 その違いが、作品を「反戦」の方に向けるかどうかの違いである。若松は夫との関係をまだ人間的なものを感じさせることによって反戦たりえているのが、江戸川は完全に夫を「性道具」にしている部分で反戦になっていない、まさに「猟奇世界」の作品になっているのである。

 江戸川乱歩は別に反戦意識でもって『芋虫』を書いていないだろう。むしろ「四肢と聴覚・視覚・言語を失った男との唯一の接点たる〈性〉とはなんだろう」という意識で書いていたのにすぎないのだ。それはそれですさまじいのだけれども、でも、それだけである。

 〈性〉に関する表現と、左翼思想にどんな関係があるのだろう。それは今の感覚では分からないものがあるだろう。

 つまり、この小説が「反戦小説」であるというイメージはないのだけれども、それをしも「反戦」と言った、戦前左翼ってそこまで追い詰められていたのだろうか、という思いの方が強い。

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